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直方簡易裁判所 平成7年(ろ)21号 決定 1996年10月03日

主文

本件を福岡簡易裁判所に移送する。

理由

一  本件は、犯罪地である福岡県鞍手郡鞍手町を管轄する直方簡易裁判所に公訴が提起されたところ、弁護人から直方簡易裁判所における審理は、弁護人及び福岡市南区に居住する被告人にとって、公訴に関する書類や証拠物の閲覧及び謄写を行うことが時間的、経済的にみて、現実的に不可能で充分な防御権が阻害される恐れがあるとして、福岡簡易裁判所への移送請求がなされたものである。

二  そこで、検討するに、本件審理においては、速度測定装置オービスの正確性が主要な争点になっており、多くのデーターを記した証拠の拡大が予想され、その閲覧及び謄写の必要性が窺われるのに、神戸市在住の弁護人及び福岡市在住の被告人にとって直方において審理を受けることは、時間的、経済的に見て相当の不便、不利益が考えられる。

ところで、本件は検察官の冒頭陳述後ではあるが、実質的な証拠調べは行われていないこと、第一回公判期日後弁護人が交代して新たな弁護活動の準備の時期にあること、また、検察官は証人として警察官証人二名、メーカー証人二名を請求し、次回期日に各取調べ予定であるが、メーカー証人二名は東京在住、警察官証人二名は福岡県在住で、いずれも福岡簡易裁判所で審理が行われても時間的、経済的な不利益は特に生じないことなどを考慮すると、検察官側にとって、福岡簡易裁判所へ移送されることにより、本件公訴の維持及び審理に重大な支障を来すとは解されない。

以上の事情をもとに判断すると、本件は、被告人及び弁護人にとって防御権の行使が充分に期待できる被告人の居住地を管轄する福岡簡易裁判所において審理するのが相当と認められる。

三  よって、弁護人の移送請求は理由があるから、刑事訴訟法一九条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 佐野史郎)

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